大学入試改革 ~特に主体性・多様性・協働性について~

先日(2018年11月19日)、慶応義塾大学が2021年度(2021年4月入学者)の学部一般入試に関する方針を発表しました。
http://www.admissions.keio.ac.jp/exam/2021ippan_notice.html

センター試験に替わって新たに「大学入学共通テスト」が行われるのは、2020年度の1月のこと。2021年4月の大学入学を目指す受験生たちが関わるものになります。慶應義塾は、このテストを利用する選抜方式を全学部で採らないとのことです。ただ、慶応義塾はもともとセンター試験利用入試をしていなかったので、これは当然と言えば当然の流れでしょうか。

それよりも、この記事で目を引くのは「3.学部一般入学試験のインターネットによる出願の際に,「主体性」「多様性」「協働性」に関する経験について,入力を求めます。」というところです。

「主体性」「多様性」「協働性」とは何か? それは、文科省が提示している「学力の三要素」というものに関係しています。現在進められている教育改革(高大接続改革)に先立ち、文科省はこれからの時代に必要な学力というものを定義し直し、その要素として以下の三つを挙げているのです。

  1. 十分な知識・技能
  2. それらを基盤にして答えが一つに定まらない問題に自ら解を見いだしていく思考力・判断力・表現力等の能力
  3. これらの基になる主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度

(くわしくは→高大接続システム改革会議「最終報告」

表現がややこしいですが、簡単に「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」、「主体性・多様性・協働性」と呼ばれることもあります。今回の慶応の発表にある「主体性」「多様性」「協働性」とは、まさにこの3つ目の要素のことなのです。

「学力の三要素」と新しい大学入試システムとの関係

この「学力の三要素」は、文科省が構想し用意を進めている新しい大学入試システムとつながっています。

まず、高校生が高校在学中に自分の実力を測るために受ける「高校生のための学びの基礎診断」というものが2019年度から導入される予定だそうなのですが、それが一つ目の「知識・技能」を問う役割を担っているようです。これは従来のいわゆる実力テストのようなもので、普段の授業や家庭学習で学ぶべきこと、習得すべきことがきちんと身についているかを測るものになるでしょう。(ただ、これは必ずしもすべての高校生が受けるものではないですし、教科も国・数・英のみだそうです。また以前はこの成績を大学受験の際に大学に提出して評価の対象にするという話もあったのですが、結局そうしないという方針になってしまい、文字通りの実力確認テスト以上の意義がなくなってしまいました。これで本当にシステムとして上手く働くのか少々怪しい気がします。)

次に、最近何かと話題になることの多い「大学入学共通テスト」は、「知識・技能」に加え、二つ目の「思考力・判断力・表現力」をも測ることがその主旨となるものです。記述問題や、単なる択一式にとどまらない問題が出されるというのは、この方面の力を問うためだというわけです。

では、三つ目の「主体性・多様性・協働性」はどのようにして測られるかというと、多くは、各大学が行う個別選抜の過程の中でなされることになるようです。これまでの大学入試システムでもそうだったように、国公立大学の受験生は、まず「大学入学共通テスト」を受け、その後に二次試験として各大学の個別選抜を受けることになります。この個別選抜において、「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力」を問う学力テスト様式のものに加え、提出書類や高校での評価、面接等、「主体性・多様性・協働性」を見るような内容の考査が行われるのだと考えられます。ただ、その具体的形式や内容は一律に決められているわけではありません。学校それぞれのアドミッションポリシー(入学者受け入れについての大学の方針)次第でかなりちがってくると思います。

さらに、今回慶応義塾が発表したように、私立大学はこの通りの選抜システムをとるとは限らないわけです。慶応義塾の場合は「大学入学共通テスト」は利用せず、個別の選抜方式のみを行うということで、受験者が「主体性・多様性・協働性」をどのような形で持っているかということに関しては、それを示すものを受験者に用意させるということです。

「主体性・多様性・協働性」を示すものといえば、たとえば学校外で取り組んだボランティアなど、種々の取り組みを何らかの形で証するものが挙げられるでしょうか。ただ慶応義塾の発表には「入力した内容は合否判定に用いることはせず,入学後の学習指導上の参考資料としてのみ活用します。」という但書がありますから、その内容で受験者をふるいにかけるという位置付けにはならないようです。

「主体性・多様性・協働性」が求められる時代

しかし、かといって慶応義塾が「主体性・多様性・協働性」をさほど重視しないのかというと、もちろん決してそういうことはないはずです。そもそも、この能力を重視していることを示唆する記述は、2021年をまたずとも、現行の各学部のアドミッションポリシーの中に見ることができます。また、慶応義塾は法学部にて「FIT入試」という名の独自のAO入試を行っていますが、公表されているものを見る限りでは、これは「学力の三要素」を総合的に問うようなものになっています。一般的な学力試験重視のテストでは三要素のうち二つは問えても、「主体性・多様性・協働性」は測れないということがほとんどだと思われますが、この「FIT入試」ではそこまでもきちんと考査しようとしていることが伝わってきます。

現在この「FIT入試」は法学部だけのものですが、2021年から先の時代に向けてどうなっていくのか注目する価値があると思います。慶応義塾に限らず、こうした「主体性・多様性・協働性」までを問おうとする特色のある選抜方式はどんどん一般的になっていくのではないでしょうか。たとえば早稲田でも、「新思考入試」というものが新たに設けられましたが、これも、かなり高いレベルで主体性と協働性を持ち、多様な人々・社会の中で輝ける力を持つ学生を求めているもののように見うけられます。あるいは、東大で推薦入試が導入されたことも象徴的です。従来の「知識・技能」に多少「思考力・判断力・表現力」が加わったような、狭い意味での「学力」しか問えなかった試験の時代はすでに終わり、「主体性・多様性・協働性」までを含めた「学力の三要素」を抜本的に測る試験の時代がもうやってきているようです。

文科省の定義の中にも「これら(※「知識・技能」や「思考力・判断力・表現力」のこと)の基になる主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」とあるように、学ぼうとする主体的な態度、自分を磨こうとする主体的態度は全てのもとになるもので、学生たちに(いや、学生でなくとも)特に大事なものです。それを教育の中で追究するようになること自体は全く悪くないことだと思います。

ではさて、そうした流れに対し、うちのような教室が今の子どもたちのために何ができるでしょう。何を提供できなければならないでしょう。安易に答えを出せるものではありませんが、その都度の舵取りが果たして間違ったものではないか、常に問い続けていかなければいけないと思っています。

2018年11月21日 | Posted in コラム | タグ: No Comments » 

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