地の文をつくろう
月替わりの塾内作文コンクール「種文学賞」。3月の課題は「地の文をつくろう」というものです。
これは一体どのような課題なのでしょうか。百聞は一見にしかず、ここで一つ例題をお見せしますので、実際に取り組んでみてその一端に触れていただければと思います。
会話文のみのやりとりからストーリーを思い浮かべる
「地の文をつくろう」とは、要するに、会話文のみで描かれた二人の人物のやりとりに、適切な地の文をつけるという取り組みです。地の文とは、会話文以外の部分、つまり登場人物たちのセリフ以外の部分のことですね。
会話文のみで描かれたやりとりとは、たとえば次のようなものです。
「おばあちゃん、元気なかったね」
「そうだね」
「何か知ってる?」
「…え、ううん、私は何も」
「そっか」
これがどのような場面なのかを想像し、適切な地の文を加えて物語として完成させるというのが、「地の文をつくろう」の趣旨なのです。
これをみて、みなさんはどんな場面を思い浮かべましたか?この二人の人物の関係は?「おばあちゃん」と呼ばれている人物は、どうして元気がなかったのでしょう?
人それぞれ、様々な物語を想定できると思います。ある程度イメージができたら、まず次のことに取り組んでみてください。
問1 この場面までのあらすじを、100字以内で説明してください。
この場面に至るまでの経緯を定かにしてもらいたいのです。一般的な物語文の読解問題によく、あらすじを説明したリード文が添えられることがありますね。そういう説明文を書くことをイメージしていただければよいでしょう。
100字って、思いのほか短いですよ。情報を凝縮させてうまくまとめてみてください。
物語を豊かにする地の文を創る
あらすじができたら、いよいよ創作の開始です。
問2 この会話文のやりとりに地の文をつけなさい。字数制限はありません。なお、問1で記したあらすじに沿う内容の物語にすること。また、各会話文の前後に必ず地の文を入れること。
「各会話文の前後に必ず地の文を入れること」と指定を設けていますが、もちろん小説の中で会話文が連続することも一般的であり、必ずしも会話文の前後に地の文が入っていなければならないということはありません。しかし、今回の種文学賞の課題としては、必ず会話文が地の文にはさまれるようにすることを指定していますので、ここでも同じようにやってみてください。
なお、ここで是非念頭に置いていただきたいのが、地の文の存在意義を考えるということです。
たとえば、次のようなものではあまりにも寂しいでしょう
花子は
「おばあちゃん、元気なかったね」
と言った。
「そうだね」
と、種子は言った。
地の文の存在意義は、会話文だけでは見えてこないものを読者に開示することにあります。たとえば、「ありがとう」という会話文があるならば、その感謝の言葉がどのような口調で、どのような身振りや表情とともに発せられたのかを地の文が表現するわけです。また、時に地の文は、情景描写をすることで物語を盛り上げたり、展開を暗示させたり、人物の心情を代弁したりすることがあるでしょう。
そう考えると、地の文が「○○が『…』と言った。」ということしか語っていないならば、その役割を十分に果たしているとは言えないわけです。「 ○○が 『…』と言った。」という事実は、その会話文を見ればわかることですから。
もちろん、長い物語の中のごく一部に「と言った」しか書かれていない地の文がある程度のことであれば問題ありません。ここで言いたいのは、全編がそればかりではつまらなくなってしまうということです。
この「地の文をつくろう」では、その存在意義を意識して、物語を豊かにする力をもった地の文を挿入してほしいのです。
作品を読みくらべてみましょう
さあ、みなさんの物語はどんなものになったでしょうか。この課題は、ぜひお子様同士や親子など、何人かで取り組んでみて、できたものを読み合いしていただければと思います。同じ会話文を扱っていても、人それぞれ異なる物語になっていくので、多様なものの見方があるという面白さを感じてもらえるでしょう。