「クラッセ・プント」 イベントレポート

4月30日、加古川市の画廊Galeria Punto(ガレリア・プント)にて「クラッセ・プント ~アートと対話の新奇な教室~」と題するワークショップイベントを開催しました。これは、絵画作品の鑑賞から想像や対話、意見発信を生み出す試みで、Galeria Puntoの全面協力のもと、その所蔵作品を参加者のみなさんとじっくり鑑賞し、それをめぐるさまざまな感じ方や意見を共有し合う場を作ることができました。

VTS、あるいは対話型鑑賞

本ワークショップは、ヴィジュアルシンキングストラテジーズ(略称VTS)や対話型鑑賞とよばれるプログラムに着想を得ています。VTSは、ニューヨーク近代美術館発祥の教育プログラムで、それを京都芸術大学アート・コミュニケーション研究センターが日本に紹介し、アートコミュニケーションプロジェクト(ACOP)という名称で独自に発展し、研究・普及しています。芸術作品をはじめとする様々な図像や造形物を鑑賞するというのが基本的なアプローチになりますが、VTSやACOPは決して芸術作品の理解や鑑賞力を磨くことが主眼にあるのではありません。認識力や思考力の深化、対話や傾聴の姿勢の形成といった、芸術分野に限られない一般的な力の育成に通じるものになっているのです。そのため、美術館や博物館での教育普及活動として行われるにとどまらず、学校教育(美術教育以外の授業)や企業の社内研修など、さまざまな場面に採り入れられています。昨今求められている新しい学びの像(「主体的・対話的で深い学び」など)にマッチする部分も大きく、子どもたちの学力を育むアプローチとして非常に期待できるものであると私は考えています。

クラッセ・プントは、VTSないし対話型鑑賞そのものを忠実に踏襲したものではありませんが、その手法や哲学を大いにヒントにさせていただきました。そこから国語教育に関わるエッセンス(論理的思考力や幅広い認識を得られるようになる点)を抽出するようにして、当学習会独自に内容を構成しました。

作品をじっくり眺め、作品の力に浴する

今回参加者のみなさんに鑑賞してもらった作品は、加古川ゆかりの画家、堀井一仁氏の作品です。彼は生前Galeria Puntoで個展を開催したこともあり、そのときの様子やいくつかの作品を同webサイトにて見ることができます(こちら)。

鑑賞対象の作品

自ら堀井氏の絵のファンであると言うGaleria Puntoの店主・籔氏は、今回の鑑賞対象の作品を堀井氏の個展で目にしたときにとても気に入られたそうです。個展開催後しばらくたってから、ふと郷愁の念に包まれとき、ふいにこの絵のことを思い出し、衝動的に画家宅に電話をかけて購入を申し出られたとか。

そんな神秘的な魅力をもつこの作品を、参加者のみなさんと時間をかけてじっくり眺め、その図像からどのような物語を見出せるかを考えていきました。

その過程の途中に参加者同士の認識や見解に相違するものが出てくることもありますが、それは大きな問題ではありません。むしろ、その見え方のちがいに対する驚きを楽しむこと、また異なる見え方によって自分の認識が変化・拡張していくこと自体を楽しむのを、参加者のみなさんには念頭に置いていただきます。

そのようにして自らの思考と向き合い、また多様な考えを受け入れ合いながら、鑑賞作品についての自分なりの世界観を作り上げた参加者のみなさんに、最後にそれぞれの考えを文章化していただきました。

なかには、詩文によって自分の見た世界を表現してくださった方もいます。まるで鑑賞作品と共鳴したことによって生まれた詩であるかのようで、作品の力によってそのような一体感が場に生まれたことは非常に嬉しい驚きでした。

※クリックすると文章をPDFファイルにてご覧いただけます

また、実は今回ご参加くださった方々の中に、堀井一仁氏の奥様とお嬢様がいらっしゃいました。お二人は堀井氏の御存命時に本作品のことを詳しくご本人から聞いていらっしゃったわけではなかったそうで、そのため今回もフラットな気持ちで作品を鑑賞することができたようです。ただ、堀井氏の作品をずっと間近で見て来られたご家族だからこそ気付く感覚があったようで、そうした立場の方々の視点を参加者たちの間で共有できたというのも意義深いものがありました。

※クリックすると文章をPDFファイルにてご覧いただけます

今後の展開

初めての試みで、私自身がファシリテーターとして未熟だったところも多々ありましたが、今回のワークショップについてご参加のみなさまにはおおむね好評をいただきました。また、何よりGaleria Puntoの籔氏がクラッセ・プントへの大きな手ごたえを感じてくださっており、今後の継続的な開催のお誘いをいただいています。今後画廊にて行われる企画展のオープニングイベントとして行うなど、さまざまな形でクラッセ・プントを展開していくことができると思いますので、ご期待いただけましたら幸いです。

また、クラッセ・プントがもとにしている対話型鑑賞については、当学習会の事業とは別のところでも注目に値することがあります。当学習会がお世話になっている芦屋川の古書店・風文庫さんが、定期的に開催するイベントとして対話型鑑賞のワークショップを開催なさるのです。京都芸術大学アート・コミュニケーション学科ご出身の白旗幌さんを迎え、店内のスぺースにて鑑賞会を開かれるとのことです。

実は、その第一回目がクラッセ・プントの前日にあり、私もそれに参加させていただくという機縁に恵まれました。対話型鑑賞の専門的なファシリテーターとして活躍されている白旗さんのもとでのアート・コミュニケーションは本当に楽しく、実に豊かな時間を過ごさせていただきました。(なお、白旗さんは風文庫さん以外にも様々なところにて「白旗座談会」という名で対話型鑑賞のイベントを行っていらっしゃいます。イベント開催の依頼も受け付けなさっているそうですので、ご興味を持たれた方は白旗さんのwebサイトをご覧になってみて下さい。https://shirohatahoro.com/

このように、私がクラッセ・プントのかたちで対話型鑑賞の試みを始めようといたところに、ちょうど芦屋で風文庫さんもまたその機運を生み出そうとされていました。もしかすると、これからアートを通じた教育法やコミュニケーションが注目を集め、どんどん広がりを見せていくのかもしれません。繰り返しになりますが、対話型鑑賞という手法は、子どもの成長のために間違いなく期待できるアプローチだと私は考えています。クラッセ・プントのようなイベントとして実践の場を作っていくにとどまらず、これからもさらにこの手法を探究して、学習会の普段の授業の中でもそのノウハウや考え方を応用していくつもりです。

(山分大史)

2022年05月04日 | Posted in コラム | タグ: , , 1 Comment » 

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